あっぱれコイズミ公式ブログ「タイのタイ冒険」

よしもと芸人の、あっぱれコイズミと申します。怪しいものではありません。猫・国内&海外旅行・ゲーム・映画・温泉巡りなどが好きです。 2015年5月からタイのバンコクに「アジア住みます芸人」として住んでいます。 ​ こちらのブログには趣味のことや旅行記やタイでの生活を書くので暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。

遠い日の幻影

子供の頃の記憶というのは、総じてあいまいなものだ。色々な事があったはずなのになにひとつ覚えていない。

 


と、おもいきや、とてもくだらない事をやけに覚えていたり、記憶にはあるがそれが夢だったのか?それとも現実だったのか?まったくわからない事があったりする。

 


CDの裏側をキズつけると、ある部分だけ音がトんだり、ぼやけてしまうように昔の記憶もトんでしまったり、ぼやけてしまうものなのだろうか?僕にはそうとしか考えられない、夢だったのか?現実だったのか?まったくわからない不思議な記憶がいくつかある。

 

 

 

今回はそのうちの一つを記述したいと思います。もう10年以上ほとんど行っていないが、僕の家は生意気にも伊豆の下田という所に別荘を持っていて、小さいころは毎年必ず夏休みに別荘に行っていた。

 

 

 

その辺は小さな村みたいな感じで、そこにある家はだいたい別荘ばかりだが、別荘以外にも農家や漁業を営んだり、町まで働きにでてる人達も住んでいる。

 


かなりの田舎なので人もそう多くなく、ご近所さん同士みな仲がいいのだが一人だけ、頑固者らしく誰ともコミュニケーションをとろうとしないおじいさんがいた。

 


いや、正確にいうと、いたはずだった。

 


僕はそのおじいさんの事を今でも鮮明に覚えている。しかし父に聞いても、母に聞いても「そんな人はいなかった」と答える。一緒に下田に行ったイトコや、おばあちゃんに聞いても、誰もそのおじいさんの事を覚えていないのだ。何回もみんなで下田に行っているのに、僕しか知らないはずがない。

 


それとも、あのおじいさんは僕が幼い時に見た夢のだというのか?そんなはずはない。あのおじいさんは誰も覚えていなかったとしても、絶対に存在していたはずだ。ぼくがハッキリと覚えているおじいさんとのこんなエピソードがあるからだ。

 


あれは小学校低学年ぐらいの時だったろうか?下田に遊びに行った時、海で3つ年上のイトコと遊んでいて、ひょんな事からケンカになった。イトコはイジワルで先に別荘に帰ってしまい、取り残された僕は一人で海岸で泣いていた。すると向こうからおじいさんが歩いてきて、「大丈夫か?一人で戻れるかい?ケガをしているようだから、私の家に来なさい。」というような事を言われた。

 


僕はそのおじいさんの悪い評判しか聞いていなかったし、僕自身「恐い人だな。」と思っていたし、今改めて考えてみると見ず知らずの得体のしれない大人の家に子供が一人で行くのだ。誘拐されたとしてもおかしくないシチュエーションだ。

 


しかしその時の僕はヤケになっていて、イトコの所には戻りたくなかったのでおじいさんについていってしまったのだ。

 


記憶によるとおじいさんの家は必要最低限の物しかおいていない殺風景な部屋で、部屋の一つが工房みたいな作業場になっていて、そこで色んな動物の形をした網細工を作って暮らしているらしい。部屋のなかにはおじいさんが作った色とりどりの網細工がところせましと並べられていたが、おせじにも裕福な暮らしをしているとはとても思えなかった。

 


「誰も私の才能を認めてくれない。世の中の人間は馬鹿ばかりだ。」と言っていたので今思うと、とても頑固な職人で、それであまり他人とかかわらなかったのかな?と思う。しかしその半面、しきりに「寂しい」とも言っていた。そう長い時間おじいさんの家に滞在した記憶はないのだが、久しぶりに人と話せてうれしかったのだろう。僕に自分の作品の中でもお気に入りだという網細工をおみやげにくれた。

 

 

 

「また遊びに来なさい。」といわれたものの、親達にはおじいさんの家に行った事はもちろん内緒で、その後おじいさんと遊んだ記憶はない。その記憶ははっきりとあり、しかも、おじいさんにもらった馬の網細工はまだ今も手元にある。

 


しかしなぜ僕以外の人間が誰もおじいさんの存在を覚えていないのか?嫌われ者だったのでみんな忘れたフリをしているだけかと思っていたが、どうやら違うらしい。どうしても気になった僕はある日の夏、ツーリングがてら下田までバイクを飛ばし、確認をしに行った。

 


村じたいはなんのかわりもなく、懐かしさを覚えたが、それよりもおじいさんの存在が気になる。顔見知りの人に聞いてみるが、みんなそんな人はいなかったと答える。

 


記憶だけを頼りにおじいさんの家があったであろう場所へ行ってみたが、そこには雑木林が広がっているだけで、人が住んでいる気配はみじんもなかった。

 


一体、僕の記憶の中にあるおじいさんの存在は、手元にある、たしかに存在するもらった網細工はいったいなんなのだろうか? 立ち尽くす僕をあざわらうかのように、あたりにはヒグラシの鳴き声だけが、静かに鳴り響いていた。