※今回から読み始めてくれたかたは、まずは前編からご覧くださいませ!!
4年前、俺達が他人ではなくなったあの日に、ホイッスルは鳴らされた。結婚というゴールに向かって、人生という名のボールを無我夢中でドリブルしていたのだ。俺達はゴールできないまま終わってしまうのか?それとも・・・?
俺たちの試合もそろそろ終盤戦を向かえたようだ。サッカーボールの柄のように、白黒つける時が来た。俺は多少イライラしながらもタイミングを見計らっていた。
彼女に会った瞬間にプロポーズをしようと思っていたものの、当の彼女は京極夏彦ごっこに夢中で、かれこれもう7時間はたとうとしている。このままでは何も言い出せないまま空虚な気持ちでドイツに向かう事になってしまう事になりかねない。
これ以上、なんの実りもないまま無駄な時間を、ただ漠然と過ごすわけにはいかない。そう思い彼女に声をかけるものの、彼女の耳には僕の声は届いていないようだ。思い切って声を荒げてみたものの偶然通りかかったどでかいトラックのエンジン音により俺の声はかき消されてしまった・・このままではらちがあかない。「こうなったら、強行手段だ!」意を決した俺は、突如トラックの前に身を投げ、ゴールを守るキーパーのように仁王立ちをした。
怒号のようなクラクションが辺りに鳴り響き、トラックは肉球の間くらいの狭い距離ギリギリで俺の目の前に止まった。彼女はその騒ぎに気づき、やっと俺の方を振り向いた。今だ!今しかない!!101回目作戦だ!
「俺は死にません!お前の事が好きだから!俺がゴールを決めたら、お前に俺の願いを叫ぶ!だから、だから俺がゴールを決めれたら、その願いを受けとめてくれ!!」
すると彼女は、一瞬困惑したような表情を見せたが、「あなたが言おうとしている願いは、多分わたしの願いと同じだよ。」と言うと、始めて出会った時と同じように、俺の目をじっと見つめ、そして優しく頷いた。
そして俺は今、憧れのワールドカップのグラウンドに立っている。ついに、ついにここまで来たのだ!あの後トラックの運転手と監督に「なんであんなことしたんだ!」とムチャクチャ怒られて出場停止になりかけたが、「そりゃ、きっとミッキーマウスの仕業だな。」の一点張りでなんとか難は逃れた。
一歩間違えれば大事故!大ケガ!!になっていただけに、ゆめゆめ考えてみると恐ろしい事をしたが、後悔はしていない。それよりも、今の俺に必要な事は、ゴールを決める事だ。日本のファンの為に、そして彼女の為に・・・・・
試合開始の前に、「君からマイナスイオン!」というギャグでブレイクした吉本興業の漫才師、「パジャマとりや&宗田義久withエロかわいい〜ず」から受けたインタビューでは「まったくゴールを決める自信がありません。
そんな事より、お前ら死ねば?」とうそぶいたが、まあ、多少のウソはその場を盛り上げるためだ。正直、ベコンベコンのバコンバコンに緊張している自分を落ち着かせるという理由もあったのだが、泣いても笑ってもキックオフの時間は刻一刻と迫ってくる。
相手チームでマークすべき選手は、ベッカムと志村けん。この2人にさえ注意すれば、あとの選手は二等兵みたいなものだ。
イケる。自分に自信を持つんだ、俺の背番号、69(シックスナインではない。ロックだ。)に誇りを持つんだ!俺の大好きなバンド・SBPFの新曲、「プリンがパーン」を口ずさみながらテンションを上げる。ちょうど一番盛り上がるサビの部分が終わった瞬間、それを待っていたかのようにホイッスルが鳴る。試合開始だ!!!!!!
・・・・控え室に置いてあった俺の携帯電話のディスプレイに、「新着メールあり」という文字が浮かんでいる。
送り主はもちろん、彼女だ。
正直、試合中の事はあまり覚えていない。覚えている事と言えば、運良くベッカムが歯槽膿漏で戦線離脱してくれ、試合に勝てた事。そして、こむら返りを痛めながらも見事ゴールを決め、「結婚しよう!」と叫んだ事。
あの時、間違いなく全世界の目は俺一人に向けられていた。世界が注目する大舞台で、たった一人の人間に向けてメッセージを送る・・・これ以上ないくらい世界一のプロポーズができたと確信している。俺はシャワーも浴びず、試合の疲労も忘れ、期待と喜びをこめて、海の向こうから送られてきた彼女からのメールを開く。そこには、こう書かれていた。
「アド変えました!新しいアドレスは×××@○○○○だよ!登録よろしくね☆あと、試合どうだったの!?勝った?」
み・み・み・見てなかったんか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!・・・・・
そのままショックで寝込んでしまった俺は代表選手を外され、帰国した。彼女の新しいアドレスも登録していないし、連絡も取っていない。
あとに残ったものは、「私と本当に結婚してくれるんですか?(笑)」と書かれた、大量のファンレターだけだった。
〜愛のという名のフリースロー・完〜