〜前回のあらすじ〜
TV番組の罰ゲームで富士の樹海に行く事になってしまった私・・・
※こちらが前編です↓
そしてついに樹海に潜入する事になった…!
どのくらい歩いただろうか?歩いても歩いても同じ景色が広がり、スタート時点から真っ直ぐ歩いているはずだが、だんだん自信がなくなってくる。
富士の樹海の地面は富士山が爆発した時に流れ出た溶岩が固まったものでできているので足場が非常に悪く、気をつけないと自然の落とし穴もあり、落ちたら戻ってこれないので少し進むだけでもかなりの体力と神経を使う。
僕は一度休憩する事にし、適当な切り株に腰掛け、渇いた喉を潤す為に水を飲む。
ゴクッゴクッゴクッ…静かすぎる。この広い樹海の中に入ってからというもの、物音ひとつしないのだ。
しかし相変わらず誰かに見られてる感は続いている。
パキッ!またもや木の枝を踏んだ時のパキッという音がし始めた。それも、ちょうど人が歩くのと同じリズムで音がする。パキッ!パキッ!もちろん周りにはまったく人影はない。パキッ!パキッ!…パキ!音がハッキリと聞こえてきて、目には見えない何者かが近づいてくる気配がする。
錯覚だとは思うが、恐くなった僕は足速にその場を立ち去る事にした。「まったく、神頼みしたい気分だ…」そう思ったと同時に目に入った石が、なぜかとても気になった。
何故かはわからない。だが、何故か気になるのだ。その石から念のようなものを感じるのだ。一応カメラをまわし、その石に近づいてみた。すると…そこには、石ではなく、お地蔵さんがポツン、と立っていた。こんな樹海の奥深くに、誰が、どうやって、なんの為にお地蔵さんを置いたのだろうか?僕はすぐさまカメラを止め、その場を立ち去る事にした。
あのお地蔵さんは、果たして何人の自殺志願者を見て来たのだろうか?その数に僕がカウントされない事を祈るばかりだ…そんな事を考えながら歩いていると、足に違和感を覚えた。あわてて下を見ると、なにか布のような物を踏み付けてしまったようだ。
「ただの布じゃない…!」それはTシャツだった。ただTシャツが落ちているだけなら恐くもなんともないが、ここは樹海だ。そしてこれを着ていたであろう人物はここにいない。その人は今ごろ……。
またもや心がバッキバキに折れた僕は走りだした。その場にいるとなにか良くない事が起こりそうで不安だった。誰もいなく、静かなのに何故か気配を感じる。その理由をハッキリとつきつけられたような気がした。
そしてさらに追い撃ちをかけるように、真っ二つに割れた携帯電話が僕を嘲笑うかのように落ちている。その横にはセーター・靴下・帽子・ボロボロの漫画が、そこに普通に人が生活していたかのように置かれている。
「帰りたい!」
もうこんな所には一秒たりともいたくない。もうこれで充分だろ?これ以上先に行ったら、お笑い番組ではなくなってしまう。帰る!帰ろう!!…
今思えば僕はこの時に精神が崩壊していたのかも知れない。来る時に道しるべ変わりにテープを木にまきつけてきたので、これを辿って行けば、とりやさん、豊泉、滝口の待つ安全地帯にたどり着けるはずだ。そのはずだ。
だが、なぜか辿りつけないような気がしてくる。樹海の中はだんだん暗くなってきており、真っ暗になってしまったら完全にアウトなので時間との戦いになってくる。「早く帰りたい。」そう思えば思うほど磁石のS極とN極のように出口はどんどん遠ざかって行くような不安にかられる。
いっその事、トータルテンボス大村さんテッテレー看板を持ちながら木の影から出てきて、「なにビビってんだよ!全部ドッキリだぜ?」と出てきてくれた方がどれだけマシだろうか?体力も限界になってきた…
でも今の僕にできる事は恐怖と戦いながら歩く事だけだ。人間の無力さを痛感しながら、歩く、歩く、ひたすら歩く…?…!?…すると、どこかで嗅いだ事のあるニオイが漂ってきた。
まさか?でもたしかに漂っている…線香のニオイが…なんでこんな樹海の中に線香のニオイがするのか?答えは一つしかないだろう。樹海の中で亡くなった仏様を誰かが供養しているのだろう。ん?誰か?人がいるのか?仏様に線香をお供えした誰かが。向こうの木の影に誰かいるのかしら?今、思えば恐ろしい行動だが、僕は思い切って声をかけてみる事にした。「すいません、誰か、誰かそこにいるんですか?」
………僕の呼びかけに応える者はいない。上空を飛んでいたカラスが「カア!」と僕を馬鹿にするように一声鳴いただけで、後は痛いほどの沈黙が続く。
意を決し、恐る恐る線香のニオイのする方に歩みよってみると、そこにはドロにまみれたお供えものと燃え尽きた線香が置かれていた。「ここで、この場所で確実に人が亡くなっていたんだな…」そのあまりにも生生しい光景に、恐怖を一周して、悲しくなってしまった。なんで樹海で命を断とうと思ったんだろうか?それほどまでに人間追い詰められてしまうものなのだろうか?僕らがお笑いライブをやっている時でも、ここ樹海ではお地蔵様はポツンとあの場所にいて、仏様は誰に発見される事もなく、寂しく眠っているのだ。同じ日本でも場所によってはこんなにも違う。
不思議な感覚に陥ると共に、ある一つの疑問点が浮かんだ。線香に火がついてないのに、何故、煙と煙りのニオイがしたんだ?肝を冷やすとはこの事だ。全身の鳥肌が立ち、冷汗がザバッ!と滝のように流れてきた。もうこんな所にはいないほうがいい。
火事場の馬鹿力で出口に向かって進む。その極限状態の僕に追い撃ちをかけるかのように、木の上からブラーン、とロープが一本たれさがっている。もちろんただのロープではない。この世とあの世を結ぶロープだ。
まるで「キミもここに首をかけて、こっちにおいよ。」といわんばかりに、風もないのにブラーン、ブラーンと揺れている。
あたりはもう真っ暗だ。僕はその後、どちらの世界に向かって歩いていったのだろうか……気がつくと僕は樹海を抜けだし、遊歩道を走っていた。車の音が聞こえる。みんなが僕を待っていてくれてるんだ。さぞかし心配していてくれているんだろう。
僕は、僕はやっと現実の世界に着いたんだ!やっとの思いで車に着くと、とりやさん、豊泉、滝口は鼻をほじり、テレビを見て、タバコを吸い、談笑しながら僕を待っていた。ボロボロの僕を見て豊泉がねぎらいの言葉をかけてくれる。「遅かったですね。お腹空いたんで早くメシ食いにいきましょうよ。」あ、現実の世界ってこんなもんなんだ。
はるか樹海の奥深くで僕が見たお地蔵様が、「うえ〜!」とズッこける音がしたような気がした…その後は、せっかく山梨まで来た事だし、みんなでおいしいほうとうを食べ一路、東京へ帰る事にした。
みんなを送ってから一人になった時、先ほどまでの様々な記憶が蘇り、改めてエライ所に行ってたなぁと思った。疲れた…本当に疲れた…でも家までもう少しだ。着いたらお風呂に入って、ゆっくり寝よう…
ガシャーン!!!!!
それは唐突に起こった。目の前がガラスが割れたかのようなイビツな模様を描いている。いや、実際に割れている。ふと気を抜いた瞬間に、車を壁に思いっきりぶつけてしまったようだ。そんなに強くぶつかった覚えはないのだがヘッドライトは割れ、フロントガラスにもヒビが入ってしまっている…まさか…まさか…無事に帰ってきたと思ったら、最後の最後に車で自爆するとは思わなかった…
こんなオチいらねぇよ…魂の抜けたように車から動けない僕の目の前に、スルスルとなにかがたれさがってきたような気がした。あの世と、この世を結ぶロープが………
そして、恐ろしい摩訶不思議体験は、これで終わりではなかったのです・・・・
〜完結編につづく〜