「タヌキが人を化かす。」これは古の時代から語り継がれてきたことであり、ジブリ映画「平成狸合戦ぽんぽこ」など、様々な作品の題材にもなっているので、ご存知の方もいるだろう。しかし、実際にタヌキが人を化かす。それも自分が化かされるなんて、夢にも思わないだろう。
ある日の午前3時頃。僕はバイトを終え、走りなれた道をバイクで爆走しながら帰っていた。
バイト先から僕の家は第三京浜という高速道路を使えば20分くらいの距離で、道も凄くわかりやすいので深夜で視界が悪いとはいえ、道に迷うことはまずない。第三京浜に入るには大通りから農道に入り、周囲が田んぼや森に囲まれている典型的な田舎道を走るのだが、第三京浜へ通じる道は直前に店もあり看板もあるので始めて来たときもすぐにわかった。
いつものように虫と蛙の鳴き声を聴きながら人気のない道を走っていると、僕の数メートル前を、動物的な何者かがサッと走りぬけた。「あら?犬か猫かしら?」と思いバイクを停車させよく見てみると、それはタヌキだった。珍しいのでテンションが上がった僕は追いかけようとしたが、そんな僕を馬鹿にするかのようにタヌキはチラッとこちらに一瞥を投げ、森の中へと消えて行ってしまった。「野生のタヌキがいるなんて、なんて素敵なとこなんだ!」楽しい気分になった僕は、ルンルン気分で再び帰路についた。
走ること、10分・・・・・・
20分・・・・・・・・
おかしい。
いつもの1本道を走っているはずなのに、いつまでたっても
第三京浜への曲がり角が出てこない・・・・・不思議に思った僕はUターンし、今来た道を戻ることにした。
走ること、10分・・・・・
20分・・・・・・・・・
おかしい、おかしいぞ!?
さっきまで走っていた道のはずなのに、なんとなく周りの景色も違うし、いつもなら第三京浜の道路が見えているはずなのに、それすらも見えやしない。一体、僕はどこにいるんだろうか?ただ単に道を間違えたんなら、走っていれば大道りに出るはずだ。なのに、いつまで走っても出やしない。いくら僕が馬鹿でも、一本道を間違えるなんて奇跡的で芸術的な失敗ができるはずがない。ここはどこなんだ?第三京浜はどうして消えたんだ?
だんだん怖くなってきた僕は、とにかく本能のおもむくまま
バイクを走らせ、やっと大道りに出ることができた。
しかし、安心したのもつかの間。その大道りはいつもの大道りではなく、駅で例えたら5駅以上も離れた街だったのだ。
普通に考えたら、通いなれている一本道を間違え、気がついたら5駅以上も離れた場所にいたなんて、ありえるはずがない。ひょっとして、
「僕は、タヌキに化かされたのか?」
いつもの2倍以上の時間をかけてやっと帰宅できた僕は風呂にも入らず、ご飯も食べずに、布団にもぐりこんだ。
・・・・気がつくと、僕はまた、バイクであの農道を走っていた。走っても走っても、ずっと同じ景色が続く道。僕は泣きながらバイクを走らす。そんな僕を見ながら、タヌキが笑っている。
!!!!!!僕は布団から飛び起き、現実の世界へ戻った。寝巻きは寝汗でぐっしょりしている。先ほどの体験があまりりも強烈すぎて、夢にまで出てきてしまったようだ。
気分が悪いので窓を開け、外の景色を眺める。空を見上げると、満月がゆっくりと消えていき、朝日が昇り始めていた。